文責:平司祭 ラジーカ
はじめまして、平司祭のラジーカと申します。わたしは新王国で最も力ある神(注1)にお仕えしている司祭です。今回はあなたがたに「エルリック・サーガ」(注2)についお話ししましょう。
「エルリック・サーガ」は英国の作家マイケル・ムアコックの作品群(注3)の一つで、他にもエレコーゼ、コルム、ホークムーンのサーガが存在します。これらのサーガは互いに関連のある平行世界「百万世界」の一つであり、各サーガの主人公は永遠に戦いつづけることを宿命づけられたエターナルチャンピオンの1側面に過ぎないという視点に立っています。
さらにこの作家は単純な視点に立ったヒーロー物からの脱却を目指したのか善悪論に代わって法と混沌という概念を持ちこみ、筋肉だるまで単純なヒーローを廃して常に自分の正義に関して思い悩み過去を悔いるというアンチヒーローを導入しています。
特にこの「エルリック・サーガ」の主人公エルリックは白子で体力が弱く、魔剣ストームブリンガーの助けなしには生きられず、結果として愛する者達を失うという究極のアンチヒーローっぷりを見せ付けてくれます。
未来への旅
ピカレイドの総督に新王国の最東端まで追い詰められたエルリックが助けを求めた黒い船は次元間を航行する船だった。コルム、ホークムーン、エレコーゼら他の3英雄達とともにある島へ向かうが…
ラジーカの解説
この物語はコルムやホークムーンのサーガでも別の視点から語られていて他のサーガの世界との関係を感じさせる仕上がりになっています。ここでの数少ない生き残りである「ラシュマーのブラット」はエルリックと行動を共にしなかったのに何故か新王国に戻っているのが謎です。
現在への旅
エルリックが黒い船を降りたところは青い太陽が輝く異次元だった。スミオーガン伯爵とともにこの次元を去ろうとするが…
ラジーカの解説
紫の街の島の禿頭伯爵スミオーガンが出て来る他には特に印象に残らないという感じの物語です。あえて言えば移動デーモンらしき馬に怯えるサクシフ・ダン伯爵が笑えるということぐらいでしょうか。
過去への旅
新王国へ辿り着いたエルリックとスミオーガン伯を溺死から救ったのは冒険家として名高いアヴァン公爵だった。ともにメルニボネ人の先祖が住んでいたというルリン・クレン・アへ向かうが…
ラジーカの解説
この物語でも人を裏切って殺しまくるエルリックに相も変わらず友人として付き合おうとするスミオーガン伯が善人すぎておもしろいです。この物語を機に新王国界でも法と混沌の争いが激しくなります。
オーベック伯の夢
南方大陸のほとんどを手に入れたマラドールのオーベック伯は魔女の住むといわれるカネルーン城へ赴くが…
ラジーカの解説
この物語はエルリックの生まれる数百年前の話でどのようにして新王国が形造られたかについてのお話です。エルリックに対するときと言葉遣いなど全く対応の異なるマイシェラが笑えます。オーベックは好みじゃなかったんでしょうねぇ。
夢見る都
エルリックはイイルクーンに奪われたメルニボネを滅ぽすことにし、スミオーガン伯他各国の有力者達に力を借りる。許嫁のサイモリルとその兄イイルクーンには手を出さないという条件を付けて…
ラジーカの解説
自分が愛したものを手にかけて、さらに自分を信じてくれた者達を見捨てるというエルリックの悲惨さを極めた物語。エルリックが行きに乗っていたスミオーガン伯の船に帰りはなぜ乗っていなかったのかはこのサーガ最大の謎です。
神々の笑うとき
自暴自棄になって諸国をさすらうエルリックの前に現われたマイルーンの娘シャーリラは共に「死せる神々の書」を手に入れることを提案するが…
ラジーカの解説
「エルリック!」でも「ストームブリンガー」でも、そして「Dragon
Lords of Melnibone」にさえもNPC紹介のところに出て来ない「踊る霧のシャーリラ」が登場する物語です。またエルリック生涯の友ムーングラムが初登場するのもこのお話しです。残念ながら「死せる神々の書」は電子図書化はされていなかったようですね。
歌う城砦
ジャーコルのイシャーナ女王に請われてジャーコルの辺境に現われたという混沌の城砦へと赴くが…
ラジーカの解説
パン・タンの魔術師セレブ・カーナが失恋するお話です。この魔術師はエルリックと自分の元恋人に復讐しようとしますが失敗してエルリックに新王国中を追い回されることになります。
最後の王の苦悩
エルリックとムーングラムはセレブ・カーナの後を追って南方大陸へ渡ったが、キマイラに襲われてどこへともなく連れ去られてしまう。キマイラから自由になった二人の前にそびえ立つ城が…
ラジーカの解説
この物語では驚くことにストームブリンガーが魂を吸い取ることに限界が来てしまいます。あぁ、ストームブリンガーの運命やいかに…あ、一応マイシェラとかも出てきます。
蒼白の皇子を罠にかける
平安の都タネローンへ向かおうとするエルリックは罠にかかり王の指輪を盗まれてしまう。指輪を取り戻すために乞食の街ナドソコルへ向かうが…
ラジーカの解説
この物語のなかでは加護を受けているらしいデーモンが出て来たり、エレノインという女の姿をした魔物が出てきたりしてなかなか楽しいです。この話で初めて「正義の作り手」ドンブラス神も出てきます。
1つの目的を持つ三人の勇者
平安の都タネローンでも平安を見い出せないエルリックは溜息の砂漠へ遠乗りへ出かける。そこでエルリックが見たものは…
ラジーカの解説
ここでもまたコルムとエレコーゼが出て来ますが、ホークムーンは出てきません。イッセルダが恐いのでしょうか?この話もまたコルムのサーガの中に出て来ます。
魂の盗人
バクシャーンにて商人達から持ちかけられた話によればエルリックの捜し求める相手セレブ・カーナがバクシャーンの大商人ニコーンの下にいるという。エルリックはかつての同胞らとともにニコーンの屋敷を急襲しようとするが…
ラジーカの解説
この物語でセレブ・カーナは遂にエルリックに殺されてしまいます。ついでにニコーンもストームブリンガーに殺されてしまいます。エルリックのかつての友人ディヴィム・トヴァーだけはまっとうに斧で殺されたので魂は救われたと思います。
闇の三王
エルリックとムーングラムは途中で出逢った娘ザロジニアと共に神秘の「トルースの森」の奥地へと進むことになったが…
ラジーカの解説
「三人(みたり)の王が闇にあり、オルグのガセラン、そしてわれ…」
という詩がとても印象的なお話しです。ここでエルリックは運命の恋人であるザロジニアと巡り合います。このお話しは珍しくハッピーエンドになっています。
炎の運び手
嘆き野ぞいのカーラークでザロジニアと共に平和に暮らすエルリックの下にかつて共に旅をしていたムーングラムが訪れる。それは東方からの
脅威を知らせるものだった。
ラジーカの解説
この物語で一番おもしろいのは「炎の運び手」を炎を吐くドラゴンで焼き殺すことでしょうか。なかなか洒落がきいていると思います。謎の東方の魔術も目をひきます。
タネローンを救うために。。。.
平安の都タネローンを滅ぼすために混沌の神ナージャンがナドソコルの乞食を引き連れて攻めてきた。タネローンの危機を救うために赤き射手ラッキールは灰色の神々に助けを求めようとするが…
ラジーカの解説
この物語の主人公はこのサーガの中で何度も出てきたラッキールです。ラッキールはいくつもの門を越えていきますが、特に印象的なのは究極の「法」が治める無の世界でしょう。このようなものを目指す「法」は何を考えているか理解できませんね。この物語も一応ハッピーエンドで
終わっていますが、彼らの幸せもそう長くないでしょう。