ゲヘナレビュー
〜〜まだ見ぬ地上を求めて〜〜

文責;牛殺し

 昨年10月に、グループSNEから発売されたアラビアン・ダーク・ファンタジーRPGゲヘナを紹介しようと思います。
 基本としては、神の力が届かない地下世界で享受者と呼ばれる超人となり、地上に帰還することを目指すRPGです。

1. 世界観

 舞台となる地下世界ジャハンナムには神の力が届きません。なぜかと言いますと、唯一神ラウと仲違いした邪霊イブリスがこのジャハンナム(これは人間の住む領域をさした言葉で、人間の領域外をゲヘナと呼んでいます)全体に覆いをかぶせてラウの光を届かなくしてしまったからです。

 このジャハンナムには人間以外の種族も住んでいます。それはすなわち、天使堕天使銀糸の民獣人(各種)です。
 天使堕天使も、そもそもはラウに光より創られた一つの種族、天使だったのですが、地下世界に人間ごと落とされて以来数世代を経ていくうちにラウを信じ続ける者と、信じない者とに分かれてしまいました。それが、天使堕天使です。
 銀糸の民は、数千人に1人程度生まれる突然変異で魔術的な才能に秀でた人間です。
 また、獣人は大別して肉食獣草食獣小動物の三種に分けられ、それぞれに長所短所があります。

2. システム

 マルチクラス・マルチスキル制で、それぞれ術技・技能と呼ばれています。技能には種族により制限がありますが、術技には制限がありません。おおまかに前衛系4つと後衛系3つ、中衛?の妖霊使いがあります。(a

 判定の方法は判定数だけD6をふって基準値以上(普通は4)が出たダイス数が成功数になります。また、この時失敗した数も失敗数として数えます、これは後述しますが、追加ダメージ等がこれで決まります。

3.連撃システムについて

 これこそがゲヘナの肝であり、「基本ルールブックにはこれをメインに据えた戦闘ルールしか書いていない」との酷評を受ける部分でもあります。
 しかし、一度の判定で、命中とダメージの両方を判定するという、他に類を見ない斬新な戦闘システムになっております。
 命中率を重視した攻撃には力が入っておらず、ダメージを重視した攻撃は命中しにくくなっている。ゲーム的には命中判定の成功数が命中値で失敗数が追加ダメージとなります。
 つまり、ギリギリで攻撃を命中させることが最もダメージ効率がよい、格闘ゲームっぽい戦闘になっております。

 一度目の攻撃を命中させると、続けて二撃目、さらに命中すれば三撃目といった風にチェーンコンボをつなげることができること、さらに闘技と呼ばれる必殺技があること、極め付きには命中率と基本ダメージの異なる攻撃段階が3段階(牽制・通常・渾身) (bあって一撃一撃に対してどれで攻撃するかを選べることが手伝って、RPG研では「格ゲーRPG」アラビア風味(笑)として定着しつつあるようです。

4.基本ルールブックとサプリメント

 先ほども書きましたが基本ルールブックには世界観がほとんど説明されていません。せいぜいで神話や地上時代の話が2〜3ページ載っている程度で冒険の舞台となる世界の説明がほとんど全く載っていないという不親切ぶりです。
 これを補完しているのが、サプリメント1(本当は基本ルールブック分冊2と呼びたい)「煉獄彷徨」です。やっと「ダーク」な部分がきちんとサポートされました。例えば以下のようなものです。

4-A.紫杯連と享受者の関係

 基本ルールブックでは、単に「登録が必須な冒険者ギルドと冒険者で、各ギルドには少し方針めいたものがある」としか描かれていなかった(b のですが、「煉獄彷徨」では紫杯連=(ヤクザ+マフィア+冒険者ギルド)/3といった感じに紹介されています。
 具体的には、頽廃の果実酒により固めの盃を交わし、ファミリーの利益を優先し、魔物退治やその他様々な仕事を請け負うといった具合です。
 いくつもある紫杯連同士の抗争などもシナリオのネタに使えるかと思います。

4-B.妖霊の扱いについて

 ところで、アラビアンな要素がどこにあるかというと、妖霊を外すわけにはいきません、否、妖霊をはずすとフレーバーにもほぼ残っていません。
 妖霊はどういう存在かといいますと、人間と同じく唯一神ラウに炎と風から作られた自我のある種族です。基本的には妖霊使いと契約によって結ばれたオプションや幽波紋の類です。

 主人と妖霊との関係はまちまちで、友人や恋人のようなものからハクション大○王のようなものまでまさにピンキリです。そんな妖霊ですが、ルール上はダイスプールとして他人にダイスを貸したり、得意な技能を使って活躍したり、便利な遊撃役となったり、工夫次第でさまざまな使い方ができます。

 なお、妖霊のロールプレイは
 1、GMが引き受ける。
 2、妖霊専用のPL(サブマスター)をつける。
 3、妖霊使いのPLが一人二役で演じる。
のどれかになると思います。ルールブックによると1が推奨なんですが、個人的意見としては単発で1はつらいと思います。まあ、他もどうかとは思いますが(笑)。

4-C.妄執の吟遊詩人フィサールとフィサールの四行詩、迷宮

 始めにも書いたと思いますが、この地下世界ジャハンナムは数百年前にはまだ地上にありました。なぜ地下に落ちてきたかというと、妄執の吟遊詩人フィサール、この男が元凶です。
 その昔地上では、イブリス以外のすべての妖霊を従えたラスマーン大帝の作った一大王国が栄えていました。そこに仕える宮廷詩人だったフィサールはあろう事かラスマーンの愛妾(女の妖霊でしたが)に手を出してしまいました。怒った王はフィサールを生きながら壁に埋め込んでしまったのです。

 そして百年近く経った頃、イブリスフィサールに囁きかけました、「一つだけ望みを叶えてやろう、やはりそこから出ることか?」、フィサールは「否、私は私の中にある世界が現実の世界になることを望む」
 それを受けてイブリスは、地上世界をゲヘナに落とし、さらにはフィサールの妄想を地下世界に顕現したのでした。こうしてできたのが地下世界ジャハンナムです。地上には居なかった種族(獣人等)や魔物などが現れたのもこのときだと伝えられています。

 フィサールは合計2500連、1万行にも及ぶ四行詩を残したと伝えられています。この四行詩は享受者たちがトラブルに巻き込まれているとき等に主に現れ、詩文の内容を成就させると地上への道が少しずつ明らかになっていき、全てを完成させると地上への光り輝く道が出来上がると言われています。

 フィサールの迷宮は、フィサールの生み出した妄想が凝り固まってできた空間の総称で、平たく言うと異世界っぽいダンジョンです。とにかく変なものが出てくるらしいですが、個体差?が激しいので一概には語れないようです。

5.総評

 戦闘はそれ自体で楽しめるものになっていますが、世界観を理解するのにルールブックやサプリメントだけではやや弱く(c、アラビアンなものを前面に押し出そうとすると他の資料をきちんと使わなければならない (dというのが少し難かと…

 5段階評価だと
  アラビアン度     ★★☆☆☆
  ヤクザ度       ★★★★☆
  超人パーティ度   ★★★☆☆
  サプリメント必要度 ★★★★★
RPG研的にはこんなところでしょうか。
 ヤクザシナリオや、格闘ゲーム風の戦闘がやりたくなったらこのシステムをお勧めしたいと思います。

<了>

(a サプリメント2人魔饗宴にて追加クラス前衛1つ後衛2つが収録されています。が、バランスはどうなんだろう、これ。
(b 私がGMのときは大抵、弱・中・強と呼んでいます(笑)。
(c 来年にはヴァージョンアップ版が出るとか。それまでに世界観の充実とバランスの再調整を願います。
(d R&R vol.10に「九本指」なるNPCが出てきますが、元ネタは千夜一夜の「鳥の煮込み料理を食べた後、手を洗わなくて親指を切り落とされた男」かと思ってたんですが、事故で切り落としたとか書いてあって残念。




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